大場つぐみ・小畑健、両先生が熱望したコラボレーションがここに実現。日本小説界の最先端を行く作家・西尾維新が、「DEATH NOTE」を完全ノベライズ化。あなたはLの伝説を見る!
原作では見せ場らしい見せ場を与えられなかったFBI捜査官、南空ナオミが本書の主人公。彼女と、世界最高峰の名探偵、Lとの饗宴。ロサンゼルスで発生した、執拗にひとつのことにこだわった犯人との、焼け付くほどの思考の戦い。
密室で殺された被害者の周囲には、壁に打ち付けられた藁人形。年齢も職業もバラバラの被害者たちに、しかし意外なところから共通項が浮かんでくる…。目も眩むような暗号のオンパレードには、ミステリを読み慣れた人なら大喜びしてしまいそうに思われます。一見しただけでは誰にも気づかれない、けれども必ず見破られなければならない、という絶妙の線引きの元に残された、数多く…、多過ぎるほどの犯人の活動の痕跡、即ち「暗号・見立て」。謎解きの醍醐味を楽しむ、というミステリの本質に、ある意味では近づいており、しかも
その全てがミスリーディングに用いられているという念の入り、用意周到さ。全く、あらゆるものが無駄なく、滞りなく機能を果たしているのを知ったときには、軽い驚きを隠せませんでした。犯人の
目的と動機が内包的に目くらましに使われているという意味では、連続した事件には何の意味もないわけですが、まさに事件のための事件、事件のための物語、という、パズラーとしての謎解き、つまりは「本格ミステリ」の本質もまた、そこからは浮かび上がってくるのが見えるような気がして、なんとも末恐ろしいものがあります。
「
探偵イコール犯人」、という図式がここにもありますが、原作のファンであればあるほど、
竜崎ルエが登場した瞬間に、彼がLであるという確信を拭い切れない。作中で最も怪しい見掛けの上に、最も怪しい言動を繰り返す竜崎(しかしそもそも本書の登場人物が実に限られているのだよなあ)が、真っ先に疑いの対象から外れてしまうというミスリードが、あまりにも大胆過ぎる。原作を下敷きにしているからこそ成り立つトリックでしょう。…そうそう、トリックといえば、もうそれが明かされてる頃には読者は既にお腹が一杯のところなのに、
針と糸のトリックなんてまとも過ぎるものが出てきて、もうなんというか、この話でこんなに「ミステリ」してしまっていいのだろうかと、逆に不安になってしまいます。
というわけで、大胆にも「DEATH NOTE」のノベライズを図った西尾氏ですが、あまりにもソツなくこなしてみせている、という印象が強くて脱帽です。竜崎のキャラクター(
実際はB.Bの演技だったわけで、想像するとちょっと可笑しいような気もする)がよく描けていて、申し分ない。本格ミステリの致命的な性質として、トリックを重視するあまりに人物が描けていない物語が多いことがよく挙げられますが、こと本作に関しては西尾節が炸裂する南空ナオミとの掛け合いが非常に面白く、実際、物語らしい物語などなく、ひとつの事件をただただ捜査、分析、推理することを繰り返す内容であるのに、それが逆に無駄のない構成に仕上がっているように思えてしまうのだから凄いものです。或いは…、ノベライゼーション、という行為に関し、本書に関して言えば、完全に西尾氏が原作を食ってしまっている感じがします。勿論、最大級に良い意味で。
蛇足として、個人的に気になるのは、本書の語り手がどうして
メロなのか分からない。南空ナオミの三人称一視点でなく、それより客観的な第三者の冷めた視線が必要だった、ということなのでしょうか。あと…、
ウィンチェスター爆弾魔事件って、原作者公認なんだろうか。
大場 つぐみ原作 / 小畑 健原作 / 西尾 維新著
集英社 (2006.8)
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