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【○】「CHERRY」月村奎

2011年11月30日 19:46

 大学生の直希はわがままクールな王子様キャラ。家柄・容姿・成績と非の打ち所がなく、女子からはモテまくりだ。そんな直希には秘密がある。実はいまだに童貞なのだ。ひそかに脱童貞すべく焦っていたある日、直希は准教授の阿倍と知り合った。大人の余裕と魅力をあわせ持つ男に秘密を知られてしまう直希。だが、いつしか阿倍の研究室に出入りするようになり…?たくらみ攻×ツンデレ受のキュンラブ・コメディ。

 態度悪い口が悪い考え方も悪い?の三拍子で、こ、これは(いい意味で)月村氏の書く少年らしくない強烈なツンツンっぷりだな、としばらくハラハラしながら読み進めていました。チェリーでピーチ、灰汁は強いです。実際のところ、前半はやはり「強烈なツンツンっぷり」に愛嬌を見出すことが出来ずにコイツ嫌な奴のまんまで突っ走るんじゃなかろうかと心配になってしまったのですが、次第に己の本性に気づいていくパートなどは納得してしまいました。しかしまあ、大学生でも社会を経験しないことには子供だなあ、と思ってしまいます、やっぱり。


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080

2011年11月30日 00:00

「こんにちは。」
「久しぶり。」
「本当、久しぶりだよね。元気してた、」
「ああ、そちらこそ、」
「相変わらず、なんとかやってるよ。」
「お互い様か。」
「そういうこと。」
「でも、なんだか雰囲気変わってない、」
「そうかな、自分では分からないけれど。」
「そうだよ。本当に随分会ってなかったんだもの。」
「まあ、そういうこともあるかな。」
「なんというかな、言葉では言い表せないけれど、」
「うん、」
「雰囲気というか、空気というか、」
「年月が経てば、誰でも、住む世界が変わるのかなって。」
「ああ、なんとなく分かる気がする。」
「自分自身が気づかなくてもさ、それとも、世界の方が変わっているのかも。」
「そういう考え方もあるかな、」
「あるね、きっと。」
「変わらないでいたい、って思うときもあるけどさ、」
「変わりたい、と強く思うときも同じくらいあるよね。」
「そういうこと。」

079

2011年11月29日 00:00

 眠れなかったので、少年に会いに行くことにした。
 いつもの広場に少年はいる。
 誰かを待っているような寂しげな視線を虚空に向けて、上から下まで真っ黒か、真っ白か、そのどちらかの姿で。こんな寒い夜には、大抵、脱いだピーコートを腕に下げて、芝生の広場に座り込んで。その瞳に移るものを誰にも悟られないように。その胸に秘め、或いは掲げる思いを知られないように。けれどもその内側に苦悩が詰め込まれていることを僕は知っている。
 ハンカチに包んだガレットをセカンドバッグに入れて、僕は少年に会いに行った。
 未だ真冬には遠いとはいえ、夜中の空気はしんと冷えて、りんと張り詰めているようだ。そんな中、少年は、いた。いつもの芝生の広場に、全身の力を抜いたように座り込み、真っ白なコートを着込み、フェイクファーのフードをすっぽりと被った彼は、いつも見る彼の輪郭よりも随分と小さく見えて、僕は音を立てないようにそっとその隣に近寄った。
「今日はなに? ガレットかな」
 少年は身じろぎせず僕に向かって問い掛ける。
 その言葉は紛れもなく僕の抱えたセカンドバッグの中身について言及したもので、
「当たり」
 まさか本当に嗅ぎ付けたのではあるまいなと僕は小さく苦笑を交えつつ、
「きみのために精魂込めて焼いてきたよ」
 バッグを開けて彼のためにクッキーを差し出した。
「ありがとう」
 言葉の持つ意味はこれである、というような顔つきでハンカチ包みを受け取ると、
「じゃあ、ぼくもこれをあげる」
 そう言って、彼は足元から銀色の筒を取り上げて僕に掲げて見せた。
「なに?」
「紅茶。ダージリンのファーストフラッシュだよ」
 僕はわざとらしく鼻を鳴らしてみせる。
「ファーストの季節じゃないだろう、もう」
「知ってるよ、言ってみただけ」
 口許を持ち上げると少年は、水筒の蓋を開けて僕に紅茶の香りを分けてくれた。
「昨日も来たよね」
「ああ」
「今夜も来た」
「ああ」
「明日も来る?」
 真夜中のお茶会である。お互いに人見知り、お互いに嘘つき、お互いに寂しがり、お互いに人恋しく。
 お互いに白く、お互いに黒く、お互いに透明に、果ては混沌に。
 お互いに何もなく、お互いに、那由多。

078

2011年11月28日 00:00

 仕事から家に帰ると、テーブルの上に紙切れが一枚載っていた。
 何か書かれているので手に取ると、
「肩たたき券 10分」
 と書かれている。
 なんだこれは。肩たたき券?
 これを使えば肩たたきをしてもらえるということか。
 それとも、これを使うから肩を叩いてくれということなのか。
 手書きで書かれた名刺大のメモ帳から千切り採ったような紙である。
 こんなものはどうでもいい、1000円やるから本当に肩を叩いて欲しいものである、誰かに。
 同居人などいたこともない、当分はいる予定もない私は、部屋の中心で溜め息をつくのだった。

【◎】「よつばと!・11」あずまきよひこ

2011年11月27日 22:14

 読みました。
 よつば、物凄く色々なところへ動き回ってますな。いや、それはこれまでも同じだったのだけれど、今回は冒頭からひとりであんなところへ…! ちびっ子は日々、探検、冒険なのだ。まさに絵に書いたような「好奇心」の塊の子です。これまでにも増して「日常」っぷりが前面に出ているような感じがしたので、ギャグ漫画としてどうこう、という枠を最早飛び出してしまっているのではと心配になるくらいに安心して読めるクオリティです。
 背景について特に顕著なのですが、(あずま氏の作風もあるのでしょうが)どんどん抽象から写実へと向かっているような気もして、よつばの成長物語としても興味深い。


077

2011年11月27日 00:00

「あー、猫になりたいなあ……」
「なんだい、突然に」
「猫っていいよねえ、気楽で、何も考えなくていいし、ぬくぬくあったかくして暮らしてればいいんでしょう」
「いやあ……、そんなこともないと思うけれど」
「でもさあ、少なくとも可愛がってもらえるよね」
「まあ、僕、猫好きだし」
「猫の毛アレルギーだけどねー」
「まあ、我慢するよ」
「あー、猫になりたい」
「なれば?」
「なれればなってるよー」
「実は今まで黙ってたけど、僕、魔法が使えるんだ」
「まほー」
「そう。猫にしてあげようか?」
「あーしてしてー」
「むにゃむにゃむにゃーの、ぽん!」
「……」
「どう?」
「にゃー」
「本当だったでしょう」
「にゃー」
「本物の魔法だよ」
「にゃー」
「本物の猫になったんだよ」
「にゃー」
「でもさあ、魔法っていっても、人を猫にするだけで猫を人にすることはできないんだけどね」
「にゃー」
「どうしようか、ついついやっちゃったけど」
「にゃー」
「まあいいか、猫好きだし」
「にゃー」

076

2011年11月26日 00:00

 目覚ましが鳴らなかった。
 言い訳を考えながら遅刻の電話をしている最中にケータイの電池が切れた。
 水道の蛇口が閉まりきらずに水がポタポタと流れ続けた。
 洗顔料が切れていた。歯ブラシも穂先が開いていた。
 顔を洗った後で、タオルを洗うのを忘れていたことに気づいた。
 靴下の親指に穴が開いていた。靴紐が切れていた。
 具合が悪いので遅刻したいという言い訳が莫迦らしくなった。
 ポストからはみ出た封筒が雨で濡れていた。
 苛立って蹴り上げた石ころがクルマのボディに当たって凹みが出来た。
 渋滞を避けようとして入った小道で水道工事をしていて迂回させられた。
 会社に電話をしようとポケットからケータイを出した瞬間に手を滑らせた。
 アクセルとブレーキの間に落ち込んだケータイを幾度も踏んだ。
 多分大通りの先では交通事故でも起きているのだろうとぼんやりと思った。
 駐車場が埋まったコンビニエンスストアの隅でズル休みの電話をした。
 熱が上がったので今日は仕事を休みたいという言い訳が情けなかった。
 傷ついた買ったばかりのケータイを眺めて溜め息をついた。
 コンビニで買った缶コーヒーの角が凹んでいた。ますます気分も凹んだ。
 飲めないはずのブラックコーヒーを片手に思考を止めた。

 朝から子供が飲むような炭酸飲料とスナック菓子を買い込んだ。
 ケータイの電源を切って、クルマに乗り込んだ。
 込み合った大通りを横目に反対車線を速度を上げて走った。
 額に手をやると嘘だったはずの発熱が始まっていた。
 クルマから降りて見覚えのある石ころを大きく蹴飛ばし、
 濡れた封筒をゴミ箱に放り込み、
 靴紐の切れた靴と穴の開いた靴下をゴミ箱に放り込み、
 空の洗顔料のボトルと穂先が開いた歯ブラシをゴミ箱に放り込み、
 水を滴らせる蛇口を握り締めるように閉め、
 目覚まし時計をセットし直して、もう一度、眠ることにする。

【○】「WISH」月村奎

2011年11月25日 22:11

 尚也は母と義父を事故で亡くし、半分だけ血のつながった弟の裕一郎と二人暮らしをしている。小学生の弟との生活を守るため、大学の授業の合間を縫って、バイトに明け暮れる日々だ。そんな尚也がバイト先で出会い、今は裕一郎の担任になった高野は、二人をいつも温かく見守ってくれている。だから尚也は一生言わない、高野に密かな恋をしていることを…。ゆっくり歩む恋人たちを描いたデビュー作、待望の文庫化。

 ということで、読みました。
 処女作の新装版ということで、久方ぶりの再読(?)。無理して大人ぶって無理が祟って自戒の念ばかりが積み重なる。自らを責める思いが卑屈な感情となり表出し、反駁による失敗が折り返し己に降り注ぐ。月村氏のお得意、一見ツンケン主人公は処女作から顕在です。恋愛物語としての切っ掛けに新しみはないのですが、ヘテロとの違いについて言葉を交わした部分は頷けるところも。自分を見つめ直すことで「幸せ」に対する素直な思いに気づくシーンが目が覚めるようで、とても切なく微笑ましいです。


075

2011年11月25日 00:00

 もう、現在ではあまり見掛けなくなった電話ボックス。
 けれども、近所に幾つかあるのを覚えている。覚えているくらいなのだから稀少なのかもしれないけれど、その中のひとつが、僕がいつも朝夕、通る道の脇にある公園の敷地内にある、古びたボックスなのだ、また。
 その日の夕方、日が暮れて殆ど真っ暗になった冬の帰り道、僕は特に何の興味も向けず、いつもの通りにその公園の横を通り過ぎ、公園の中にある電話ボックスをも、また、通り過ぎようとしていた。
 しかし、その日は、それまでとは少し、違っていた。
 電話ボックスの中には、ひとりの男がいた。珍しい、今どき若い男が公衆電話で通話をするだなんて。ケータイの電池でも切れたのか。しかし今どき、コンビニで簡単に充電器を買うことが出来る。大体、誰かに電話をしようと思っても、ケータイの中にアドレスを保存していることが殆どなのだから、『ケータイの電池が切れたから公衆電話で電話する』ということが行動としてなかなか繋がらないのだ。
 そんなわけで、珍しい光景を目にした僕の歩調は緩んでいた。電話ボックスからも外を歩く人間の姿は普通に見えるわけで、そんなに興味津々と眺めるようなことをしたら、逆に非難の目で見られるに決まっているのだが、そこは夕暮れの闇に紛れてのこと、僕はふと湧いた野次馬根性で、さりげなく電話ボックスの側を歩くことにする。
 すると、妙なことに気づいた。男の体勢が妙に傾いでいる。というよりも、僕と同じくらいの背丈である彼の身体は、殆どがガラスの壁にもたれかかるようにしており、膝は崩れ、顔はうな垂れ、とても自分の力でその場に立っているようには見えないのだった。
 僅かに黄色っぽく光る、電話ボックスの明かり、それが男の服を照らしている。そのジャケットの胸元から腰に掛けてが、やたらと赤黒いことに気づいたのは、自分が最早ボックスの直ぐ側まで近寄っていることに気づいたのと同時だった。そして思う。あの赤いものは、もしかしたら…、血ではないのか。
 男は怪我をしているのか。どうして。事件か、事故か。彼自身の過失で怪我をしたのか、それとも、誰かに怪我を負わされたのか。あの軽症とはとても思えない怪我の原因を作った何者かが、近くにいるのではないのか。連鎖反応的に、僕は考える。
 そのときにはもう、僕はいつの間には電話ボックスの直ぐ外に立っている。男に声を掛ければ、返事が普通に聞こえてくるであろう位置にまで。しかし、男は微動だにしない。僕の存在に気づいていないわけはないだろう…、いや。彼は。
 そして、また気づく。ぶら下がって宙に浮いている受話器から漏れる呼び出しの声。少しトーンが高い、女性の声か。恐らくはこの男の名前であろう単語を繰り返し、呼び掛け続けている。テレホンカードが挿入されているのか、通話可能時間の表示がまだ残っている。赤い男が誰かに発信し、そして相手が受話器を取り、通話の最中か、それとも相手が応答する前に、男は通話を続けることが叶わなくなった。
 応えない男。
 何が起きているのか、分からない僕。
 ここにいるのは、僕ひとり。
 そして、魔が差す僕。

 これは、ほんの短い、反駁の物語。

ネギの臭い対策にビニールを三重に

2011年11月24日 23:07

■長野へ。家庭菜園と呼ぶには本格的過ぎる、しかし親父様の趣味でやっている畑の収穫祭です。
 野菜くれるっていうからひょいひょい出掛けたら、朝から昼まで農作業させられたよ!
 久しぶりに物珍しい(というものでもないが)作業にテンションが上がったり下がったり。
 ネギと白菜と大根と春菊と水菜とほうれん草と、あと知り合いからいつも分けてもらうリンゴと、何故か実家の庭に育てられているキウイと…。それから、畑を貸してくれている親戚の伯母に精米がされていないままの米も頂く。大感謝です。

■朝、ゆーふぉー雲に遭遇。10分ほどで拡散してしまったので、綺麗に写真が撮れて運が良かった。
453568989.jpg

■夕方、善光寺へ。先日、甲府の善光寺でも行ってきた戒壇巡りをしてきました。
 どうも受付時間ギリギリだったようで、僕らがラスト、大トリという奴です。
 係の人にマジで言われましたので間違いないです。
 まっくらまっくら! 錠にも触れたよ! 靴の入ったビニル袋を持って地下へ行くので、折角、世間の空気から離れる空間の中、ガサゴソ余計な音がするのはとても残念だと思う。あと換気扇が(静かな中なので余計に)五月蝿いです。

 僕らが出るとほぼ同時に、本堂は閉まる。
453927062.jpg

 実は城山公園の少年科学館にとてもとても行きたかったのだけれど、時間の関係で無理でした。次回こそ…!
 夕闇が辺りを染め行く中、門前町を少しだけ散策。工芸屋さんとかお茶屋さんとか、ゆっくり見たいなあ。
 以前に一度だけ来た、実は有名なお蕎麦屋さん(既に閉まってました)もチェックしておいたので、次回こそ…!

■ラクティスのクルマ目一杯に野菜を積んで帰るの図。ビタミン摂るぞー。

074

2011年11月24日 00:00

 貴方は300円を持って、コンビニに行きました。
 そこで、120円のおにぎりを買いました。
 お釣りは幾ら?

   *   *   *

 貴方は、お皿に載ったひとつのリンゴを四等分して食べることにしました。
 四等分したリンゴのうち、三つを貴方は食べました。
 貴方が食べたリンゴは幾つ?
 お皿に残ったリンゴは幾つ?
 元々あったリンゴは幾つ?

   *   *   *

 買い物から帰った貴方は、冷蔵庫の中に野菜とお肉を入れようとしました。
 冷蔵庫の扉を開けると、中は一杯で、買ってきた野菜や肉は入りません。
 どうすれば、一番効率良く野菜と肉を仕舞うことが出来るでしょうか。
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073

2011年11月23日 00:00

 数日前、ルームメイトと喧嘩をした。
 知人友人恋仲家族、何処にでもあるような暴力の出てこない口喧嘩だ。
 けれども、毎日、生活を共にする空間の中でこじれた仲は、修復することは難しくないと分かっていても、事態が収束するまでのしばらくの間、心情的に、どうにも、気まずくて仕方がない。つまりは、仕事から帰ってくるのが気後れするのだ。家に帰るのが嫌だとか、アイツの顔を見るのが苦になるとか、そういうレベルの話ではないのだけれど、社会人でしか分からない微妙な空気の読み合いがあるのだ、やはり。
「ただいまー……」
 そんなわけで、何とはなしに、こっそりと、というような感じで声を掛けながら玄関の扉を開けると、心持ち遠くから返事がした。
「おかえりー。御飯、出来てるよ」
 玄関から伸びる廊下の一番最初の扉、その中の居間からする声である。相方は先に帰宅しており、くつろいでいるらしい。自炊は一日交替で行っているのだが、先日の喧嘩以来、こちらが帰宅したのは実は本日が初日であり、夕飯など、どうしようかと考えていたところだったので、まさかの飯の支度済みに驚く。
「おお……、ありがとう」
 なにが『ありがとう』なのだろう、と自分でも首を傾げながら廊下を奥に進む。
 台所に行くと、成る程、御飯だけが、ちゃんと炊けていた。
 白米である。
 夕飯は作れということか。
 それとも、これを食えということか。
 このままで。これだけで。
 冷蔵庫を覗いても、何か作り置きがあるわけでもない。
 親切か、それとも仕返しか。
 或いは、意趣返しか。
 ありがとう、などと答えてしまった手前、姿勢に高い低いもないのだが、このままではどうしようもないので居間に戻ることにする。居間の中央に置かれたコタツに肩まで潜り込んで、彼はケータイでゲームをしているらしかった。指先を動かし続けながら、彼は口を開く。
「おかえり」
「……ただいま。あの、」
「御飯、あったでしょ。僕はもう食べたから、残さないでいいからね」
 蓋を開けた炊飯器の中には、炊けた白米が水平に残されていた。明らかに『僕はもう食べたから』なんて嘘なのだが、やはり彼は、意図的に、白米オンリーで相手に食わせたいらしい。悪戯か、それとも苛めか。いい大人が、全く。
「ああ、じゃあ、そうする」
 顔を合わせないまま、居間を後にする。
 台所に戻りながら、簡単に作れる夕飯のレシピを脳内で検索する。確か収納にカニの缶詰があったはず……、これで豪華な炒飯でも作るか。怒られるだろうか。いやいや、今日はもう、彼とは口を利かないことにした。人一倍、気分屋であるくせに、それが顔に現れてこないからタチが悪い。お互い様だ。
 しかしまあ、2合炊かれている白米を2人前のカニ炒飯に仕立て上げて、その半分を台所に残しておくくらいでは奴も何も言うまいな、と思い直し、景気付けの缶ビールを冷蔵庫から取り出すことにする。本当、お互い様だ。

072

2011年11月22日 00:00

 最近の大きな悩み事。
 彼女が現実に夢中になるがあまり、私に興味を示してくれない。
 私は彼女の「夢」だったはずのものである。
 そもそもが形として存在しているものではないために、元々、意識的に再現されていたものではなかった私は、彼女にとっては実際のところ、あってもなくても同じようなものであったのだろうと思う。
 けれども、時折、私のことを彼女が思うことがあって、そういうときにだけ、私は私自身が存在してもいいのだと実感することが出来、同時に、彼女に、私の存在を許されているのだと考えることが出来、救われているような気持ちにすらなったのだ。それは彼女にしか出来ないことであったし、私が自分勝手に私の存在の在り方を変えることが出来ないため、という大きな要因が示す背反律でもあったのだろう。
 ところが、である。
 彼女はこのところ、目の前の現実ばかり見ているのである。充実した現実を。
 もう、彼女が私のことを思い返さなくなってどれくらいになってしまっているのだろう。私は、それが「最近」のことであると考えてはいるのだけれど、そもそも、過去や未来という概念とは無縁である私にとっては、それが彼女にとっての数日前なのか、それとも、もう十年も前のことなのか、そんなことも分からないのである。
 だから私は、別段、寂しいとか、彼女に構われたいのだとか、そういう人間臭い感情でもって悩んでいるのではない。それはむしろ、もう、私は彼女にとって必要とされなくなっている、という開放感に近いものであるのかもしれないのだ。
 彼女は、ひとり立ちをしようとしている。現実を、目の前を直視することは大切なことなのだろう。しかし、現実しか見えなくなることによる弊害を、彼女は忘れてしまっているのではないか。私を認識することが出来ていた頃の、あの、現実に対する怯えにも似た警戒心、いつでも油断せずに物事に取り組もうという計画的な自尊心を失ってしまっているのではないのか。それが、私は不安なのである。このまま、彼女が私を完全に認識出来なくなってしまったときに、彼女の側に残るものは、何も言わない「現実」だけになってしまうのではないかと、それが心配なのである。
 しかし、もう、彼女は私を見ることはないのだろうと、私はほぼ確信している。彼女は、もう、私を見ることが出来ないのだ。彼女の「現実」は、もう、定まり始めている。そうしたら、もう、現実を見失いでもしない限り、彼女は私の側には戻ってこない。そして私も彼女の側には戻らない……、戻れない。
 さようならも、言わないまま。それが、私という存在だからだ。

【◎】「秋霖高校第二寮 リターンズ・2」月村奎

2011年11月21日 22:08

 「聡のことが死ぬほど好きなんだ」と、波多野は安藤の告白を断った。でも日常は変わらず、うっかり立ち聞きした台詞は聡の空耳だったとしか思えない。だから波多野の卒業まで、日々がこんなふうに続くはず、と考えていたのだ。そこへ聡の両親が帰国するというニュースが!聡は今すぐ寮を出ることになってしまうのか、そして波多野との恋(?)の行方は…?ワンダフル・スクールライフ、嬉し恥ずかし初合体。

 ということで、読みました。は、初合体…。
 あまりに報われない主人公の聡に同情したり、けれども波多野のぶっきらぼうながらも確信を突いた「そうやって上から目線で人を憐れむのか」という言動に(第三者という立場から)動揺してしまったりと肝を冷やしながら見守っていたのが昔のようです。相手を理解することが相手を好きになる第一歩。「リターンズ」になってからの本シリーズは良い意味で普通のBLとなっており、安心して読むことが出来ますね。安堵のあまり涙が出てしまう。ほろり…。
 というか、ふたりの恋仲の加速度が物凄いよ! 正編「第二寮」の焦らしっぷりが嘘のよう!
 温泉旅行編は物語的にも色々進展、お二人さんも色々進展でようございました…。


071

2011年11月21日 00:00

 自宅に仕事上のパートナを構えるというのは、時に妙に児戯のような会話をもたらすものだ。
「はい、コーヒー」
 夕食後、夜半の仕事に向けてもうひと頑張りにと、カップを二つ持って部屋に戻ると、彼は満面の笑みを浮かべた。
「ナイス。1ポイントあげるね」
 カップを受け取りながら、そんなことを言う。
「……なんだよ、1ポイントって」
「何かイイコトをされた時に僕からプレゼントする、ご機嫌ポイント」
「……なんだよ、ご機嫌ポイントって」
 思わず、眉に根が寄った。
 彼は熱いコーヒーを啜りながら解説してくれる。
「100ポイント貯まると、僕からも飛び切りのイイコトがあるよー。お楽しみに」
 子供が悪戯を思いついたときのような、茶目っ気のある表情で彼は言う。
「……飛び切りのイイコトって、なんだよ」
「やだなあ、それをわざわざ言わせるの? 先に? いいの? 言っちゃって?」
 続け様に語尾を上げる彼の目が、どんどん細まっていく。
 嫌な予感しかしない。
「いや、いい。言わなくていい」
 僕は首を振ったのだが、彼はどうしても言いたいらしい。
 だったらさっさとそれを口にすればいいのに、やたら勿体振る。
「いやいや、教えてあげよう。100ポイント貯める励みになるよー」
「いや、いいから。ポイントもいらない」
 その出鼻を挫くために、僕は頑としてイエスとは言わない。
「そう言わずにさあ。ちなみに、今のところ34ポイント貯まってるんだよ。まだまだ先は長いよ」
「いつから始まってたんだ。……いいって、もう」
「なんだよ、つれないなあ。1ポイント減点!」
「……減点もあるのか」

【◎】「秋霖高校第二寮 リターンズ・1」月村奎

2011年11月20日 22:17

 聡が秋霖高校&第二寮に入って一年が経った。再び巡ってきた希望の春、新学期―。波多野との関係にさしたる変化もないが、それに問題はないはずだった。ところが、第二寮に新たな住人が入寮。彼女は小説家・波多野の大ファンで、そのうえ寮内のおさんどん等々も楽しげにこなしてしまう。使い走りに恋人(?)の座。聡のポジションは奪われてしまうのか…!?ワンダフル・スクールライフ、嬉し恥ずかし大復活。

 ということで、読みました。
 新シリーズ開幕編。寮生2年生になり、相変わらず自分勝手な嫉妬と勘違いは多いし周りの面々に振り回されるしで、いいとこなしの聡だったけれど、新入生(メガネっ娘!)が入寮したことでまた物語に新たなアクセント。また違った視野で自分自身を見つめ直す切っ掛けになったようです。
 一人称語りの面白いところで、ほんの少し視点が変わるだけで人の見方もころっと変わってしまう。本書にてようやく波多野の本心らしい本心が伺えて、強がりとすれ違いの意味合いが少しだけ解釈出来たように思います。しかし…、くそう、乱暴とはいえ、これほどに想われやがって、幸せ者め…!
 あと、本書ではバレンタインディの騒動が幾つか描かれているのですが、少年たちのいざこざだけでなくて、きちんと友人である少女たちの言動もエピソードの中に織り込まれているのがいいですね。BLブランドの小説であろうが、「女性」はどうでもいい、というスタイルは無視して欲しくはないものです。


070

2011年11月20日 00:00

「私ってさあ、何のために生きてるのかなあ」
「俺のため」
「え」
「俺も、お前のために生きてる。だから同じだ」
「ちょっと、なに勝手なこと言ってんのよ」
「違うのか?」
「え……、だって、その」
「その?」
「……莫迦! 人が真面目に話してるのに!」
「真面目だぞ、俺も」

やる気とは別の話

2011年11月19日 23:09

■366デイズ、更新再開しました。何ヶ月振りだ…。そして何日続くのか…。
 創作のペースがめっきり減って、しかもそれから随分が経とうとしているのに、未だに、時折ですが、何か書きたいという衝動に駆られて…、それとも、つられて、というべきなのか、何か書いています。今回も、何の気なしに「何か書けるかな」くらいの気持ちで書いてみたら、「あら、書けた」というような感じですが、まあ、続くだけ続けてみようというところ。
 出来るだけ予約投稿の機能を使って、毎日、0時0分1秒の更新になるように書いておきます。本当ならば元日から続いているはずなのに、いつの間にかサボってしまっているな…、これだから大人の「忙しい」っていう言い訳は嫌いなんだ。自重、自嘲。散文的にならないように「何か」を書きます。期待はなさいませんよう…。

 やはりミステリを読むとミステリが書きたくなるし、BLを読むとBLが書きたくなる。いつまで経っても、初心者丸出し。

 ところで、昨日書いた掌編(のひとつ)が面白かったと嫁さんに褒められた。一気に寒くなってきたので冬の話なんかどうかな、と思ったので、あんな話ですけれど。べらぼうに嬉しいので甘いものでも買い込むことにします。モノローグの書き方がちょっと変わったね、と意見を頂く。なんだか今風、とのこと。ほほう…。何にも意識はしていなかったけれど、そういうこともあるのか。



069

2011年11月19日 00:00

「僕のこと、好き? 嫌い?」
「好きでもあるし、嫌いでもある」
「それって、嫌いってこと?」
「そうは言っていない。嫌いであるときもある、というだけ」
「じゃあ、好きってこと?」
「そうは断言していない。嫌いであることも、ある」
「じゃあ、どっちでもない? どっちでもいいってこと?」
「そんなことは言っていない」
「どうでもいいってことなんでしょう。そうなんでしょう」
「そんなことも言っていない。どちらもある、と言っている」
「それじゃあ駄目。どっちだか、はっきりして」
「はっきりしている。どちらもある。どちらもなければ、駄目だ」
「どっちかじゃ、駄目ってこと?」
「その言い方は、少し違う。全部が、同じように、可能性として、ある、そういうことだ」
「可能性の話じゃないんだよ。現実、今、この時の話をしてるの」
「今か」
「今だよ」
「今なら、お前のことは嫌いではない」
「じゃあ、好きってことだね?」
「それも、可能性のひとつだ」
「だから、そうじゃないんだってば。はっきり答えて欲しいの、僕は」
「はっきり答えている。解釈の違いだけだ」
「意見がすれ違うのは嫌なの」
「面倒くさいな、お前は。ただ好きだとい言えばいいのか」
「なにそれ、それって、そんな面倒くさい奴は嫌いってこと?」
「そんなことは言っていない」

【○】「秋霖高校第二寮・3」月村奎

2011年11月18日 22:31

 聡は最近大忙しだ。高校は文化祭シーズンで、クラスの出し物作りや美希に押し付けられた料理部の仕事、これにいつもの寮のおさんどんが加わり、常に締切に迫われる波多野とはゆっくり話すヒマもない。しかも波多野はふいに姿を消したりもする。そんなある夜、遅く帰宅した波多野から漂ってきたシャンプーの香りに、聡の心はもやもやでいっぱいになって…?ブランニュー・スクールライフ、ひとまずここでおしまい。

 ということで、読みました。
 上っ面だけでは感情やら深層やらは理解出来ないであろう、意地っ張りなのか素直でないだけなのか、一癖二癖の少年たちのシリーズ完結編。後に、「リターンズ」と称して新シリーズ3部作が発行されていますが、ひとまず閉幕。
 愛とか恋とかあるのか? あっていいのか? 勘違いじゃないのか? と読者の側が心配になってしまう夫婦漫才(笑)にも、一応…、ひとまず、ほっと胸を撫で下ろすラストはこの業界のお約束なのですが、それに至る経緯が如何にもこのシリーズっぽくてうかうか出来ませんね。愛情なのやら愛憎なのやら分からないったらない波多野の言動、試しに一度、思い出して全部裏返してみよう!
 続編をお楽しみに!


068

2011年11月18日 00:00

「じゃーん! 半年振りにやってきたよ! お久しぶりー!」
 ドアを開けると、なんだか派手派手しい格好に身を包んだ高校生くらいの子が両手を広げて叫ぶように言った。
「……どちら様?」
 正直、全く知らない相手だったので、僕はドアスコープで確認してから扉を開けるべきだったか、と考えながら返事をする。半年振りとか、久しぶりとか言われても、本当に何のことやら。誰だ、お前。
「僕だよ僕。ぼくぼく詐欺じゃないよ! 覚えてないの?」
 おお、新しいな、ぼくぼく詐欺。確かに世の中の男の一人称が全て「オレ」のわけはないのだ。騙される親御さんの30パーセントくらいは息子の一人称もちゃんと覚えていないのではないかと、僕は常々思っているような人間だ。普段から誰に対しても一人称が「私」の男だってごまんといるぞ。
 大体、人と会った一番最初の瞬間に「じゃーん」はないだろう、「じゃーん」は。
「覚えてない。というか、全然知らないから。人違いだよ。隣じゃないの?」
 確かこのマンションの僕の隣は学生だったはずだ。その能天気な友人だか親戚だか知り合いだか、そんなところなのだろう。そんな風に考えて答えてやると、少年は思いっ切り、という言葉が似合いそうなくらいに愁傷な顔をしてみせる。黒いジャケットに赤いシャツ、カーキ色のカーゴパンツに黒いレギンス、ハイトールのスニーカは緑色だ。物凄い配色だが似合っているのがまた物凄い。そんな見た目でシャギーが入ったみたいなアッシュグレイの猫っ毛で目鼻立ちが整っていれば、如何にも子供っぽさが抜け切れていない顔の作りをしている少年は、なんだかコミックか何かか抜け出てきたかのようで、現実感に乏しい。稀に、そういう人間が、ちゃんと現実にもいるのだ。
「1118号室でしょ、ここ」
「ああ」
 扉にも書いてある部屋番号を彼が言うので頷くと、
「じゃあ、合ってる。お邪魔しまーす」
 少年はそれこそ、猫が路地裏を抜けて歩くようにするりと僕の横を通って部屋に入ってしまう。
「おいおい、おいおいおい……」
 なんだこいつは。
 なんなんだこいつは。
「待てよ」
「わあ、相変わらず散らかしてる部屋だねえ。乾燥する季節だから服とか放っておくと直ぐに皺になっちゃうよ」
「待てって」
 僕は、どんどん部屋の奥に入って物色でも始めようかという少年の腕を掴んだ。
「やっぱり、お前のことなんて、知らないぞ」
「そんなことないって。半年前に、『また半年後にね』って言って別れたじゃない」
「そんな約束……」
 した覚えはない、そう言おうとして、しかし、僕は口に出来ない。基本的に「他人との約束」が苦手というか、得意でないというか……、とかく、他人の発言を覚えておくことが出来ないタチの人間なので、口約束は好きではないのだ。オマケに人の顔を覚えるのも苦手ときている。これで一端の社会人気取りなのだから失格もいいところだ。これは頭の出来がどうとかいう話ではなくて、現実に対して危機感が乏しいためなのだろうけれど。
「したでしょ」
 少年は、腕を掴まれたまま、他に何を信じる、とでも言うような顔で僕を見遣る。
「……名前を言いなよ」
 思案した末、僕は問う。
 振り返って、ふと真顔になった少年は、短く答えた。

「フユ。……思い出した? お久しぶり」
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【○】「秋霖高校第二寮・2」月村奎

2011年11月17日 21:44

 聡の高校生活は相変わらずだ。寮のおさんどんは押しつけられっぱなしだし、乱暴粗暴横暴で外面だけがいいカリスマ美形高校生作家・波多野からは使われ放題。けれどそんな日常のなか、波多野と仲の良い先輩がなんとなく目障りだったり、クラスの女友達から告白されたことを波多野に相談したくなったり、なんて己れで己れを疑うようなその感情に聡は気付き…。ブランニュー・スクールライフの続きはどうした。

 ということで、読みました。
 相変わらずの傍若無人男に振り回されるツンケン少年。凄いシリーズだな、と改めて感じた。この一見、愛の無さっぷり…、ツンデレとかそんな次元の話ではないのではないかとも読めてしまう。あまりにも儚い真心が、全然素直になれないふたりを覆い尽くしているのがじれったくて仕方ありません。というか、もしかして、師弟愛ってこんなものなのか?この話に、ちゃんとした恋なんて存在するのか? ともあれ、聡の感情の浮き沈みと思い込みは今回も激しいです。最後の最後まで、彼ららしい遣り取りに始終ハラハラです。もっとやれー。


【○】「秋霖高校第二寮・1」月村奎

2011年11月15日 21:27

 聡にとって初めての寮生活はピカピカの希望に満ちていた。が、連れて行かれたのはボロボロの一軒家、先住者は双子の美人姉弟、ヤクザな教師、そしてカリスマ美形高校生作家波多野。入寮早々、乱暴粗暴横暴の三拍子揃った波多野に使い走りにされ、言いたい放題に言われて、聡は腹が立ったり落ち込んだりするものの、なんだか彼が気になって仕方なくて…!?ブランニュー・スクールライフのはじまりはじまり~。

 ということで、読みました。
 シリーズ本編3冊+続編3冊完結ということで、本書から再読。8年ぶりくらいか。殆ど初見の心境で読めました。奥付を見たら発行が10年前になっている。と、時の経つのは早いなあ…。しみじみ。
 素直でない少年は本当に…、もう、なんだか…、初々しいなあ。過剰に構って欲しくないと主張するくせに、放っておかれると寂しくなってしまう。構い下手、構われ下手、そんな第ニ寮の面々です。BLレーベルなのにどうにもそれっぽくないのは月村氏の作風の良いところで、なんとなく、そう思わせるくらいで丁度良い。巻末にある掌編の「夜明けまであと少し」で、やっと、このシリーズがBLなのだと気づかせてくれるくらいです。


【◎】「深夜食堂・8」安倍夜郎

2011年11月15日 21:12

 今年もまた、秋の夜長に腹が減る。
 秋の夜長、食欲の秋……、ただでさえ腹が減る季節の夜にさらに食欲中枢を刺激する単行本が発売に。読めば読むほど腹を空かし、読めば読むほど心をほっこりさせる。そんな『深夜食堂』の最新第8集がついに発売に!

 ということで、読みました。
 いつもながらの深夜食堂。こんな店あるのかよ、と思いながらも、常連になりたい気持ちはいつも僅かに感じる読者のひとり。真夜中に読むほどに腹が減ってくるのもいつものこと。嬉しいとき、楽しいときでも、哀しいとき、辛いときでも、腹は減る。どうせ食うなら美味いものを食いたいものです。美味いものが食いたいと思っていなくたって、美味いものを食えば少しばかり幸せになる。
 今回はなんだか、「メシ」が主体というよりも、界隈のドラマが面白みを増していたような感じがしますよ。マスターの過去とか、数年越しのエピソードとか。


【◎】「五色沼黄緑館藍紫館多重殺人」倉阪鬼一郎

2011年11月14日 19:49

 某県・五色沼のほど近くに唐草模様で彩られた黄緑館・藍紫館という名の面妖な洋館が並んで佇んでいる。深い霧と降りしきる雪の中、館のお披露目パーティーが開催された。が、招待客はわずか4人。奇妙なムードの中第一の殺人が!!被害者は「怪物が…」と死の直前に呟く。連鎖し起こる不可能殺人!衝撃の真相が待つ。

 ということで、読みました。ビバ、バカミス。
 ふたつの奇妙な館で起こる、奇妙な連続殺人事件。誰もが首を傾げる違和感は、即ち全編に仕掛けられた作者の企み、試み。なんと本編の半分以上を占める「解決編」の怒涛の「推理」の開陳。世界の外側から人を食らうという怪物の正体は…!?
 と、読者の興味を煽る梗概も書けるのですが、5分の1くらいまで読んだところで、「事件」以外の真相が全部見えてしまって、声を出して笑ってしまいました(本作より以前に講談社ノベルスより刊行されている氏のバカミスを読んだ人ならば、同じような体験をしているはず、きっと)。やり過ぎだよ、これは! やり過ぎ! 後はもう、倉阪氏の絶大なる「物語を紡ぐ苦労」を偲びながら読み進めました。作中で起きる事件のトリックも如何にもバカミス、本書「そのもの」もバカミスの中のバカミス!
 いやあ…、大いに脱力した。


【○】「球体の蛇」道尾秀介

2011年11月12日 17:17

 1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになるのだが…。呑み込んだ嘘は、一生吐き出すことは出来ない―。青春のきらめきと痛み、そして人生の光と陰をも浮き彫りにした、極上の物語。

 ということで、読みました。
 橋塚家にまつわる過去の数々の事件、またその先にある主人公との関わりの中で現れる幾つかの罪。それらはミステリの手法を用いて語られている(彼らが強く意識しない限り物語の中に登場しない真実の断片がある)けれども、本作で一番強調されるのは、「男女の行き違い」であるように思いました。それは行動の規範の違いであるし、考え方の根本の違い、なのかもしれない。本作のみでそれを断言することは無謀なのだろうけれども、読み進めるごとに遣り切れない悲しみばかりが積み重なっていくのには堪えた。
 最後になるともう、思い出したかのように「ミステリして」くれるのですが、これはもうあってもなくても、物語の完成度には関係がない。現実の可能性など、その程度のことなのだけれど、その可能性で人は振り回され、人を振り回していく。その衝撃が堪らなく悲しいと思う。
 男と女、光と影。どちらが、どちら。


出不精です

2011年11月08日 17:14

■「詳しくは店頭か、ウェブへ」て言われたら、そりゃあまずはウェブだよなあ、と思う出不精タイプです。

■ちょっとマニアックなネタ。
「住職! こんなものが郵便受けに!」
「なになに…、『貴院の本尊、一光三尊阿弥陀如来像、確かに頂きました』なんてことだ…!」

 →Wikipediaを参照。 : 善光寺一光三尊阿弥陀如来像

■一曲まるまる回文。やるなあ。

【○】「月と蟹」道尾秀介

2011年11月07日 17:11

「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」
「叶えてくれると思うで。何でも」
 やり場のない心を抱えた子供たちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人たちに、そして少年たち自身に、不穏なハサミを振り上げる―やさしくも哀しい祈りが胸を衝く、俊英の最新長篇小説。

 ということで、読みました。
 第144回直木賞受賞作。少年たちが秘密の場所で行う秘密の儀式。何処かオカルティックな遊びを、不思議と崇高な儀式のように描いてみせる道尾氏の手腕は、ある意味、子供たちが大人社会顔負けの行動に対する理由なき「すり替え」をしている様をこっそり本作に投影させたのではとなんとなく考えています。
 大人びた、というよりは子供のくせに冷めた視線で現実を見る少年は昨今、珍しくもなく、こうした「現実離れ」をする子供の怖さも大人は知らなければいけないのかもしれません。とはいえ、それは昔も今も、同じなのかもしれないけれど…。


【◎】「クラッシュ」鑑賞。

2011年11月06日 19:37

 面白かった。
 多くの人種差別やハラスメントなどをごった煮にして人間ドラマに仕立て上げたような作品みたいだと、最初の頃は単純に感じていました。とにかく作中の台詞が痛烈な罵倒ばかりで、観続けるのにストレスが溜まりそうだと投げ出した人もいるのではないでしょうか。しかしそれがある意味、リアルなアメリカ社会の風刺なのだと思えば、次第に変わり行く雰囲気を息を呑んで見つめることが出来るはず。
 「一見、善い人、悪い人」であるという登場人物に対して抱く鑑賞者の視点すら、一種の偏見的な誘導であると気づかされます。後半に行くに連れ、物語のトーンは静かに、穏やかになっていく(勿論、突きつけられる現実は痛烈でかえって言葉に出来ない類のものもあるのですが)本作のテーマがそこにあるのは明らかで、例によって前情報無しで見た幸せな鑑賞者でした。登場人物は老若男女、枝分かれしており、モザイク型の群像劇なのですが、根幹にあるのは同じことについて語られているのです。画面から解説される情報も少なめなので、考え考え観る、ちょっとむずかし目の映画ですね。


人力TAS

2011年11月02日 19:45

■衝撃のラストへノンストップ! 面白かった!
 SFC版不思議のダンジョンって、本当に「完成されてる」と思う。ひとつの完成形、という言い方も。
 クリエイタはその先を探し続けなければいけないのだから大変というか困難というか。




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