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蚊取り線香

2009年08月02日 23:34

 569文字。ショートショート。
 夜中に目が覚めて起き上がると、見慣れぬ色の煙が布団の横に上っていた。
 蚊取り線香の缶の横に座り込んで、鼎(カナエ)は僕の煙草を吸っていた。
 我が家に似合わないデジタルの目覚まし時計は、まだ夜明け前を示している。
「起きるにはまだ早い時間だぞ」
 そう僕が声を掛けると、僕の前では煙草なんて吸ったこともなかったはずの鼎は、
 ばつが悪そうな顔つきを薄明かりの下で見せる。
「……蚊が五月蝿くて」
 見当違いの答えを口にして唇を尖らせる少年の、
 よく見ればその口元の煙草には火が点いていない。
「ああ、点けてくれたのか」
「なんで変なことでぼくが怒られなきゃなんないのさ」
 煙草の煙だと僕が思っていたそれは、鼎の横にある蚊取り線香の渦巻きから立ち上る煙なのだった。
「ごめんごめん」
 僕は少年の横に擦り寄ると、シガレットをひょいと摘み上げ、線香用のマッチを擦って火を点ける。
「煙草、吸うのか?」
 訊くと、鼎はますます機嫌の悪そうな顔をする。
「……たまにはね」
 蚊取り線香を点けたマッチで、そのまま煙草に点火しようとして失敗した……、そんな感じだ。
 それとも、順番は本来、逆であるべきだったのだろうか。
 僕は気づかない振りをすることに決めた。
「ふうん……、一緒に吸う?」
「吸う」
 煙草の箱にはもう残っていなかったので、仕方なく僕らは一本の煙草を順番に吸った。


コメント

  1. fate | URL | -

    薄闇の中の

    なんだか、現実と夢の狭間のような時間帯、幻想とリアルの中間のような空気に魅せられました。
    蚊取り線香とタバコ。
    ふと共有した時間と空間とタバコ。
    その煙がゆっくり立ち昇る様が見えるような静けさがありました。
    こんな絵のような一部分を切り取れるって、素晴らしいなぁ! と感動でした。

  2. 祐樹一依 | URL | -

    コメントありがとうございます

    感想を受けて、改めて自分は「空間を切り取る」ような書き方が好きなんだなあ、と、ふと思わされました。
    確かに、本編などは掌編ですので、そうそう沢山の場面などを書けるはずもないのですが、
    時間にしたところで場所にしたところで、或いは邂逅や日常など、そんな中の、
    更にほんの一場面を切り取って晒すような遣り方が好みのようです。
    もしも出来うることならば、それがとある連続した物語の中の、第三者が見て興味の湧くような、
    そんな「一瞬」以上のものでありたいかな、とまた思ったものです。

    掌編は特に、一枚の絵を書くような感覚もあって面白いですね。

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