「GOSICK」桜庭一樹、読了。(☆☆☆★+★?)

2006年06月10日 09:48

 タイトルは「ゴシック」ですが、ゴシック様式、ゴシック美を主眼に置いた物語というわけでもありません。「gosick」という単語は存在しないので、桜庭氏の造語でしょう。或いは「go+sick」なのかも。第一次世界大戦後の西洋が舞台。ある小国に留学した日本人の少年、九城一弥と、貴族の少女、ヴィクトリカとの交流を描いた物語。
 小粒なトリックから大掛かりなギミックまで、色々と詰め込まれた一冊で、このレーベルとしては作品的にも良く出来ているのでは。冒頭から、とある占い師が殺された密室殺人が提示されるのですが、これはもう有名な前例のあるトリックで、問題提示の瞬間にトリック自体は正直バレバレなのですが(作中でもあっさりと解明されてしまいます)、物語の導入と不可思議な少女ヴィクトリカ(男性名だけれど少女)の紹介に絡んだやり方としては悪くないです。この事件を切っ掛けに、ふたりは大きな謎の前に立ち向かうことになるのですが…、これが凄い。
 白昼の客船から突如、乗員が全て消えてしまったという不可思議な話を聞いたことがあるかもしれません。本作に出てくるクイーン・ベリー号も、またそんな不可思議な事件が十年前に起きた船の再来、なのです。偶然と興味が働いたことにより、少年と少女はこの船への「招待」を受けるのですが…、最終的なところから言ってしまえば、桜庭氏は、この「消失事件」へのひとつの解答を示して見せたのではと思われます。ここまで大規模な「占い」をする必要があったのか、と思わないでもないけれど、国家間の政治的共謀が働いていたとすれば、これくらいのスケールが逆に丁度いい。過去に起き、闇に葬られた「野兎」事件と共鳴して、船の内部で命を落としていく者たち。ミステリというよりもサスペンス(スリラー)としての性質が強いようですが、少しずつ謎が解かれていくことにより、過去と現在の繋がりが恐るべき真実をもって明かされることになります。例えば救難ボートの転覆シーンでジュリィが不敵に微笑んで見せたり、ネッド(ヒューイ)とテニスボールの組み合わせが印象的に映ったり(脈を止めるトリックも読者が一瞬で分かってしまう類のトリックですが、実際、これは心臓や首に触れられたら失敗なので、綱渡り的な要素が非常に強い)と、謎解きに欠かせない伏線が割りと分かりやすい形で明示されているので、「ああ、これはこうなんだな」と読者も悪い意味で真相に辿り着きやすくなっているのです。けれど、それを差し引いても本作の事件の「真相」は、ミステリとして作者の罠に読者がしっかりと(興味も含め)嵌められた印象を強く残しますね。というのも、ヴィクトリカが男性名であることが、ジュリィがアレックスと名乗っていた伏線として機能していたり、冒頭の「占い師殺し」の犯人のアラブ人のメイドが、「野兎」として助かったリィであったり(殆どの読者はそんな事件忘れてしまってると思うのだけれど/笑)と、「意外な真相」のための本書全体に影響する伏線が幾つも張られているので、決して侮れないのです。
 富士見ミス文庫が打ち出している「ミステリ+ラヴ」も、なにやらほんわかとした雰囲気で落ち着いているのですが、時代背景と人物考証を重ねれば「好い感じに落ち着いている」でしょうね。

GOSICK−ゴシック−
桜庭 一樹〔著〕
富士見書房 (2003.12)
通常24時間以内に発送します。


 以下は、「GOSICK」に絡めた蛇足。
 本書を読んでいるうちにふと思ったのですが…、ヴィクトリカは実は、「野兎」の中の一人の少女だったのではないかな、と。当てはまるのはフランス人の少女かな。つまり十年前の原体験の恐怖で、身体の成長が止まってしまった少女なのではと。やたら無愛想で、或いは対人恐怖を隠しているのかもしれない人付き合いの仕方や、見掛けに似合わぬ嗄れ声(つまりハスキーヴォイスですが)、学園の図書室への半ば幽閉のような扱われ方とかにも一応の説明がつくな(つまり)、と思って、ドキドキしながら読み進めたら、本人の口からその可能性を却下されましたね(笑)。
 大体、読み返してみたらブルネット(青みがかった黒)の髪だという記述があったので、どう転んでもハズレのようですが…、単発の作品として成立させた場合、そのような「真相」もあってもいいかな、と思ったもので。「病へ向かう」というタイトルにも合わないこともないでしょう? 駄目かな


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