ミステリ不全症候群。猫とミステリと少年と。祐樹一依のミステリ不全な日々。小説や漫画、映画等の感想。ミステリとBL書いてます。 |
「プリズム」貫井徳郎、読了。(☆☆☆★)
2006.11.29.Wed
幾重にも繰り返される仮説の構築と崩壊、一筋の光が屈折・分散し、到達するところには…。小学校女性教師が殺された事件をめぐり、周囲の関係者が様々に視点を変えて謎に迫る究極の推理ゲーム。
貫井版、「毒入りチョコレート事件」とも呼べるミステリ。作中に起きる事件は、単純なように見えるのに、突き詰めて考えると不可思議でしかない状況にあり、関係者が意見を出し合い推理を進めるディスカッション型ミステリとして筋の通った構成をしている。しかも本作の場合、「毒チョコ」とは全く異なる試みがなされていて、ミステリの読者としての経験が深いほどに、読了時の感慨が深まるという面白さ。
数少ない手掛かりから導かれる意外な真相。しかし前章で犯人だと結論付けられた人物が、次章の語り手となり、当人は自分が犯人ではないことを強く自覚している。視点が変われば、ひとつの事件は全く異なる形で印象化される、「真相」の連鎖。「ミステリ」というものを構成する重要な要素として本来、見過ごすことの出来ない、「彼または彼女は、何故、事件の真相を知ろうとするのか」が描かれることにより、後々、貫井氏が最も本書で描きたかったと思われる、あるファクタが強烈に印象を残す。
本書で最も興味深いのは、二転三転する「推理の経緯」の中で転がされる、被害者である女性教師の像だろう。これほどに事件の渦中にありながら(唯一の「事件」の被害者であるからでもあるが)、彼女についての情報は、一切が二次的なものであるために、多くの読者は彼女に関し、まともな人物像を描くことに窮するのではないだろうかと思う。それゆえ、事件がどのようにして起きたのか、ということは当然ながら、事件の動機などは、第三者としてはとても想像しにくい。それを逆手に取って導かれることとなった、本書の「真相」。正直、驚いた。
読者は、あの「真相」が提示されただけでは、満足は到底出来ないだろう。最終的に物語の中で結論付けられた「真相」は、いわゆる読者の望む、事件を解決するための「真相」ではない。けれども、物語の外周をぐるりと一周して戻ってきた推理の着地点が、実際、元のところには戻ってはいないところが、本書の実験的なところであり、そして最も秀逸なポイントだと思う。
本格ミステリの極限に挑んだ、という謳い文句は、決して誇大広告ではない。そしてミステリとして、だけでなく、ひとりの女性を取り巻く視線、視点の移り変わりによる、物語の変化は、まさに本書の題、プリズムがしっくりくる表現だと思う。
貫井版、「毒入りチョコレート事件」とも呼べるミステリ。作中に起きる事件は、単純なように見えるのに、突き詰めて考えると不可思議でしかない状況にあり、関係者が意見を出し合い推理を進めるディスカッション型ミステリとして筋の通った構成をしている。しかも本作の場合、「毒チョコ」とは全く異なる試みがなされていて、ミステリの読者としての経験が深いほどに、読了時の感慨が深まるという面白さ。
数少ない手掛かりから導かれる意外な真相。しかし前章で犯人だと結論付けられた人物が、次章の語り手となり、当人は自分が犯人ではないことを強く自覚している。視点が変われば、ひとつの事件は全く異なる形で印象化される、「真相」の連鎖。「ミステリ」というものを構成する重要な要素として本来、見過ごすことの出来ない、「彼または彼女は、何故、事件の真相を知ろうとするのか」が描かれることにより、後々、貫井氏が最も本書で描きたかったと思われる、あるファクタが強烈に印象を残す。
本書で最も興味深いのは、二転三転する「推理の経緯」の中で転がされる、被害者である女性教師の像だろう。これほどに事件の渦中にありながら(唯一の「事件」の被害者であるからでもあるが)、彼女についての情報は、一切が二次的なものであるために、多くの読者は彼女に関し、まともな人物像を描くことに窮するのではないだろうかと思う。それゆえ、事件がどのようにして起きたのか、ということは当然ながら、事件の動機などは、第三者としてはとても想像しにくい。それを逆手に取って導かれることとなった、本書の「真相」。正直、驚いた。
読者は、あの「真相」が提示されただけでは、満足は到底出来ないだろう。最終的に物語の中で結論付けられた「真相」は、いわゆる読者の望む、事件を解決するための「真相」ではない。けれども、物語の外周をぐるりと一周して戻ってきた推理の着地点が、実際、元のところには戻ってはいないところが、本書の実験的なところであり、そして最も秀逸なポイントだと思う。
本格ミステリの極限に挑んだ、という謳い文句は、決して誇大広告ではない。そしてミステリとして、だけでなく、ひとりの女性を取り巻く視線、視点の移り変わりによる、物語の変化は、まさに本書の題、プリズムがしっくりくる表現だと思う。


